はじめに:自宅での酒販免許取得は可能か?成功への最重要課題
「インターネット販売(ネット通販)で事業を立ち上げたい」「初期費用を抑えるため、自宅の空きスペースを事務所兼店舗にしたい」―。
近年、酒類販売業免許(酒販免許)の取得を検討される方から、「居住用の建物を販売場として申請できるか?」というご相談が非常に多く寄せられています。
結論から申し上げますと、居住用の建物を販売場として酒販免許を申請することは可能です。
しかし、そのためには、新規の申請以上に厳格な「場所的要件」をクリアする必要があります。特に、自宅を販売場とする場合、「居住スペースとの明確な区分」と「建物所有者・管理組合の承諾」という2つの壁が最大の難関となります。
本記事では、酒販免許の申請サポートを専門とする行政書士が、自宅や住居用の建物で酒販免許を申請する際の具体的な条件、建物形態別の注意点、そして成功事例を分かりやすく解説します。
1. 自宅申請の最大の壁:「場所的要件」と「独立性の確保」
酒販免許は、「申請者」と「場所(販売場)」の両方に対して付与される許認可です。ネット販売(通信販売酒類小売業免許)であっても、お酒の管理・販売業務を行うための実態のある「販売場」が必ず必要となります。
国税庁が定める免許の要件のうち、自宅申請で最も重要となるのが「場所的要件」です。
1-1. 場所的要件の基本:「取締り上不適当と認められる場所」でないこと
酒税法では、「正当な理由がないのに取締り上不適当と認められる場所に販売場を設けようとしていないこと」と定められています。
居住用の建物を販売場として申請する場合、税務署の指導官は、その場所が「事業用(酒類販売場)として使っても問題がない場所」であるかを厳しくチェックします。
1-2. 最重要ポイント:居住スペースとの「独立性の確保」
自宅を販売場とする際の最大のポイントは、居住スペースと酒販場所が明確に区分されているか、つまり「独立した営業スペースが確保できているか」という点です。
- 区画の確保が必須: 酒類販売場は「他の営業主体から独立した営業」でなければなりません。リビングやキッチンの一画など、生活スペースとの区画が明確でない場所での申請は困難です。
- 最低一部屋の用意: 独立した一部屋を販売場専用に用意できた方が、許可取得の可能性は格段に高まります。
- ワンルームは原則困難: ワンルームマンションなどで住居と酒販を同一空間で申請する場合、独立性がないと判断され、取得難易度は非常に厳しいと考えられます。
【POINT】 免許交付時には、販売場の図面(平面図)に赤枠で免許交付部分の区画が明示されます。この区画を他者や生活スペースと専有使用できる状態にすることが求められます。
1-3. その他:既存の免許との重複がないこと
申請する地番の区画で、すでに他の会社や同居している家族が酒販免許を持っている場合は、同一の場所では申請できません。免許は「この地番のこの区画」に付与されるため、既存の免許と重複しないことが必須です。
2. 建物の所有形態別:使用承諾のハードルと必要な書類
自宅で酒販免許を申請する場合、建物所有者(貸主)が「酒類の販売場として使用すること」を承諾していることが必須要件となります。所有形態によって、必要な対応が大きく異なります。
2-1. 戸建ての場合(自己所有または親族所有)
戸建ての自宅は、賃貸やマンションと比較して比較的申請しやすい形態です。
所有状況 | 確認事項と対応 | 承諾の必要性 |
申請者自身が所有 | 建物所有者が申請者自身であるため、特別な承諾書類は不要です。 | 不要 |
配偶者と共同で購入 | 配偶者にも所有権があるため、配偶者から「使用承諾書」を取得する必要があります。 | 必要 |
両親や親族が所有 | 所有者(両親や親族)から「使用承諾書」を取得します。賃貸借契約がない場合でも「使用承諾」が必要です。 | 必要 |
【注意】 建物所有者が複数いる場合(共有者がいる場合など)は、すべての所有者から使用承諾書を取得する必要があります。

2-2. 賃貸アパート・賃貸マンション(ワンオーナー)の場合
賃貸物件で最も重要となるのは、賃貸借契約書の使用目的です。
- 契約書の確認: 契約書の使用用途が「居住専用」に限定されていることが大半です。
- 貸主の承諾: 居住専用の場合、必ず事前に大家さん(オーナー)や不動産管理会社に「お酒の販売事業を行うこと」を伝え、事業利用の承諾を得る必要があります。
- 使用承諾書の取得: 承諾を得られたら、大家さんまたは管理会社から「使用承諾書」に捺印を依頼し、税務署に提出します。
【転貸借(又貸し)の注意】 不動産の所有者から直接許可を得ていない転貸借の場合、物件の所有者からの使用承諾書を別途取得する必要があります。

2-3. 分譲マンションの場合(自己所有・賃貸問わず)
分譲マンションの一室を販売場として申請する場合、最もハードルが高く、取得できない可能性が高いと認識しておくべきです。
- 管理規約の確認(最大の壁): ほとんどの分譲マンションは、管理規約によって使用用途が「居住専用」と厳しく定められています。
- 管理組合の承諾が必須: 酒販免許は「実態として事業を行う場所」として申請するため、自己所有・賃貸に関わらず、マンション理事会または管理組合から、事業用として使用することについての書面による「承諾」を得る必要があります。
- 承諾が難しい理由: 事業利用が禁止されるのは、来客増加、セキュリティ、騒音などにより、他の居住者の迷惑になることが想定されるためです。
【重要】 分譲マンションの場合、たとえ所有者(貸主)が許可を出しても、管理組合の承諾が得られなければ免許は取得できません。承諾が難しい場合は、別の場所での申請を検討すべきです。
3. その他の重要な注意点:場所の適格性
独立性の確保や承諾以外にも、その場所自体が酒販場所として適切かどうかの要件があります。
3-1. 飲食店・他の酒類販売業者との併設の区別
酒販免許の販売場は、原則として酒場や飲食店、または他の酒類販売業者と同じ場所では認められません。
- 例外: 飲食店内や他の酒販業者と併設する場合でも、場所が完全に区画割りされており、お酒の在庫や代金決済が明確に分けられている場合は、例外的に取得が認められるケースもありますが、厳格な審査が必要です。
3-2. 禁止されている物件での申請
以下の場所に該当する場合、酒類販売場として認められません。
- バーチャルオフィス: 実態のある販売場が必要なため、バーチャルオフィスでは取得できません。(法人の住所として登記することは可能です)
- フリーアドレスのレンタルオフィス: 自分の場所が決まっていないフリーアドレスタイプでは、営業所の独立性が確保できないため不可です。個室タイプであれば取得可能です。
- 用途地域制限: 都市計画法に基づく市街化調整区域などでは、原則として新たな販売場の設置は認められません。
- 農地法の制限: 土地登記簿の地目が「農地」「田」「畑」となっている場合、農地転用の手続きが必要となります。
レンタルオフィスで酒類販売業免許は取得可能?行政書士が費用や注意点を解説
4. 【お客様の声】こんな自宅でも酒販免許を取得できました!
当事務所にご依頼いただき、自宅を販売場として酒販免許を取得されたお客様の事例をご紹介します。
事例1:【戸建て・倉庫活用】居住スペースと独立した倉庫を販売場に
- 申請形態: 通信販売酒類小売業免許
- 課題: 自宅(自己所有戸建て)の一室を使おうとしたが、広さが足りない。
- 解決: 居住棟とは別の敷地内にある独立したガレージ(倉庫)を改装し、完全に居住スペースと切り離された「独立した販売場」として申請。一部屋分の広さと独立性が確保できたことで無事取得。
事例2:【賃貸アパート】大家さんと二人三脚で承諾を得て取得
- 申請形態: 一般酒類小売業免許(ネット販売併用)
- 課題: 賃貸アパート(ワンオーナー)で「居住専用」契約。大家さんが事業利用に当初難色を示す。
- 解決: 担当行政書士が大家さんに対し、「来客がない通信販売がメインであること」「事業専用の独立した一部屋を確保すること」を説明。大家さんの事業理解を得た上で使用承諾書を取得し、スムーズに許可取得に至った。
事例3:【分譲マンション・自営業者】管理組合への丁寧な説明で許可
- 申請形態: 通信販売酒類小売業免許
- 課題: 自己所有分譲マンション。管理規約は「居住専用」だが、事務所として使用したい。
- 解決: 申請者(所有者)と当事務所が連携し、「来客がなく他の居住者に迷惑をかけないこと」「酒類の一時保管のみに使用すること」を明記した説明資料を作成。マンション理事会に提出し、特例として事業利用の承諾書を取得。難易度の高い分譲マンションでの取得に成功した。
まとめ:自宅での酒販免許取得を成功させるために
自宅や居住用建物での酒販免許申請は、場所的要件における「独立性の確保」と「所有者や管理組合からの承諾」が最大の山場です。特に、分譲マンションの場合は、専門家のサポートなしに管理組合の承諾を得るのは非常に困難です。
建物の種類 | 成功への最大のハードル |
自己所有の戸建て | 生活スペースと販売スペースの明確な区分(一部屋の確保など) |
賃貸アパート/マンション | 大家(オーナー)から事業利用の書面による使用承諾を得ること |
分譲マンション | マンション管理組合・理事会から事業利用の書面による承諾を得ること(最も難易度が高い) |
酒販免許は許認可の中でも申請難易度の高い部類に入り、販売場の要件不備で不許可となるケースは少なくありません。
私たち酒類販売業免許申請代行センターは、居住用建物での申請実績も豊富です。ご自身の自宅が要件を満たしているか不安な場合、また、管理組合への交渉に悩んでいる場合は、ぜひ専門家にご相談ください。
貴社の事業計画をヒアリングし、申請可能かどうかを無料で判断いたします。
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